JPモルガン代表年次レター Vol.2 意思決定方法とリーダーシップについて

JPモルガン銀行の代表、ダイモン氏の年次レターサマリーの第二弾は意思決定方法と企業のリーダーシップについてです。今回も同氏の長年の経験に裏づけされた、示唆に富んだ内容となっています。

II. Lessons from Leadership
1. Enforce a good decision-making process.
2. Examine raw data and focus on real numbers.
3. Understand when analysis is necessary and when it impedes change.
4. Before conducting an important analysis, assess all factors involved.
5. Always deal with reality.
6. Remain open to learning how to become a better leader.

•   企業が長期的な成功を維持するには、卓越したマネジメントが重要。事実をみる → 分析する → 細部を探る、これを何遍も何遍も繰り返す。トライアルを繰り返し、学習を繰り返す。
•   事業の失敗を通常起こり得る結果として受け入れること。
•   優れた型(ビジネスモデル)を編み出すことは重要だが、それが必ずしも効率的に結果を生み出すこととは限らないと認識すること。最終判断は、当然ながらその判断を下す人間=属人性、そして不測の事態が起こる可能性が絡んでくるからだ。
•   そのためにも意思決定プロセスを訓練しておく必要がある。時間軸を意識し、独りよがりの判断を避けること。
  1. 意思決定プロセスの改善

よい意思決定は、そのイシューに関わる全ての情報が適切なメンバー間で共有され、かつ継続的なフィードバックとフォローアップが前提となる(通常は残念ながら真逆のケースが多い)。
• 与えられた情報を何度も何度もレビューすること → たいていの場合、答えはそこにある。
• 意思決定を急いではならない。
• 直感は大事であることは間違い無く、実際に最終意思決定のファクターとなり得る。ただし、直感は根拠のない推測とは違う。長年の経験とハードワークから裏打ちされたものだ。

【Serendコメント】 直感と根拠のない推測はわずかな違いにみえるが、この2つがもたらす結果の違いは大きい。直感には腹落ち感があり、それには上述されたような根拠がベースになっている。

  1. 素材データと精査された数値の見極め

未加工データ(ロウデータ)と精査された数値は分けて考える必要がある。後者の場合、データプロセス手法と前提をよく確認すること。これを企業運営に当てはめると、日々のオペレーションを精査せよ、ということになる。多くの企業が製品やサービスのマイナス面よりも新規顧客などからの目立つ数値に目が行きがちだが、顧客からのクレーム、オペレーション・ミス、同業他社の注意しなければいけない動向に目を配るべきだ。

また、適切なサービスをタイムリーに提供し続けるために、顧客セグメントごとにマーケットを見るべきだ。往々にして、素材データと企業トップの見識は食い違うことが多い。これはなぜかというと、企業トップが自分が主張したいことにつじつまをあわせるために素材データを解釈して使うことがあるからだ。

  1. 分析が必要な時・分析が変革を阻害する時

分析手法にこだわりを持つことは重要だが(特に多年度分析)、分析をどのように活用するかに留意しなければならない。仮定が多用される場合、ごくわずかな変数の変化が分析結果に大きな影響を与えてしまう。

一方、新製品投入やシステム投資などに関しては、それに対してあまり分析に時間をかける必要はない。 例えばクラウドシステムやAIなどの仕組みを導入するとした場合、それらの正味現在価値を見定めることはあまり意味がなく、それよりもその仕組みを速やかに不具合なく導入することに注力すべきだ。

【Serendコメント】 分析に時間をかけるべき分野と省略すべき分野について述べているが、企業のオペレーションはこういう緩急が必要。特に日本企業は、後者の迅速に動くというのが苦手なところが多いのでは? 特にシステム導入などはもたもたしていると企業存続にとって致命傷になるケースもある。

  1. 重要な分析を行う前に、関与する全てのファクターをレビューすべし

時として、非常に複雑な事象をそれに関与する全てのファクターを考慮せずに理解しようとする人がいるがそれは間違いだ。あらゆる側面からの全てのファクターを洗い出しレビューすることが重要だ。

この手法は、現在及び将来のコンペティタ分析、自社分析などにも用いられるべき。

  1. 常にリアリティ(現実)と対峙せよ

人生同様、ビジネスにおいても我々は確実性・不確実性と向き合わなければならない。過去を振り返れば、予測不可能な事象が多くを占めることがわかる。我々JPモルガンでは、確実性の高低に幅をもたせたあらゆる可能性を事前に想定する。例えば、想定外のことが起こることを予測し毎週100のストレステストを行ったり、現在の規定の見直しや10年後の規定がどうなっているかを予測したりしている。

多くの人は、未来は過去の継続的な延長と捉えがちだが、現実は極端な変化を伴う変曲点が時に現れる。そして、そういった経済の変曲点を確実に予測することは不可能に近い。なんらかのソリューションを想定する場合、変曲点を考慮に入れずに安易な前提で進めるとしたらおそらく失敗するだろう。

  1. よりよいリーダーになれるよう、オープンマインドを心がけるべし

1~5で挙げたポイントの他に、リーダーシップというソフトスキルも非常に重要だ。

企業が大きく複雑になればなるほど、経営陣(リーダー)はプレーヤーとしてではなくコーチあるいは指揮者として立ち回るべきだ。
企業の運営に際して、信頼と円熟度が必要とされる場合が往々としてあるので、ソフトパワーは時としてハードパワーより重要だ。

自分のチームをリスペクトし、彼らから学ぶべし。
大企業のマネジメント層は多忙を極め、全ての詳細を把握することは難しい。自分の様々なチームメンバー・顧客から学ぶ姿勢が重要だ。

好奇心を保つべし。
様々な観点を理解するために、質問をなげかけ、また自らのマインドを柔軟に保つことが重要だ。過去の判断にとらわれるな。部下が自分の過ちを指摘したらありがたいと思うべし。独善的になるな。

ヒエラルキーは無視すべし。
大企業のオペレーションがヒエラルキーに大きく影響されるとしたら、その企業の寿命は長くないだろう。アイディアやデータなどは、階級にかかわらず迅速にシェアされるべきだ。それによって社員が自分のタスクにより責任感を持つようになり、事業の多くのプロセスもよりスピーディに進む。また、軋轢を恐れない社員が何人かいると、社内変革がより早く訪れるだろう。コラボレーションも重要だが時としては変革の足かせとなる。

適切なスピードで行動すべし。
時間が十分にある際はあらゆるファクターを分析するべきだが、緊急事態の場合は迅速な意思決定が必要だ。さほど重要でない事柄に対する意思決定に必要以上に時間をかけることは得策ではない。

【Serendコメント】 上記にあげたソフトスキルは全て納得がいくポイントだが、現在の企業トップのあるべき姿は、強力なリーダーシップで組織を引っ張っていくというより、社員をサポートする姿勢が強いサーバント型に移っていることがわかる。また、3の分析に関するポイントでも述べたが、企業経営には緩急が必要で、事象によって時間をかけるべきものとそうでないものを判断する必要がある。時間が有限ということを意識すべき。

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