JPモルガン代表年次レター Vol.3 銀行が直面している脅威

ジェレミー・ダイモン氏の年次レターサマリー、今回は既存銀行が直面している様々な脅威(新しいテクノロジー、異業種からの新規参入者など)についての言及です。

III. Banks’ Enormous Competitive Threats — from Virtually Every Angle.
1. Banks are playing an increasingly smaller role in the financial system.
2. The growth in shadow and fintech banking calls for level playing field regulation.
3. AI, the cloud and digital are transforming how we do business.
4. Fintech and Big Tech are here … big time!
5. JPMorgan Chase is aggressively adapting to new challenges.

• 銀行を取り巻く環境を正しく把握するためには、まず自社の強み・弱みを正しく理解しなければならない。
    銀行の強み:ブランド、スケールエコノミー、収益性、顧客との強いつながり
    銀行の弱み:官僚的な企業文化、レガシーシステムなどの古い運用体制、法規制のしがらみ
• JPモルガンは今後も永続的な成長をするものと確信しているが、同時にこれら脅威(コンペティター)との競争が非常に厳しいことも理解しており、より迅速にクリエイティブに動いていく必要がある。
• 自分は開かれたオープンな競争(市場)を支持しており、それは米国にとってよい結果をもたらすと信じている。健全な経済には堅牢な経済システムが必須であり、変化し続ける市場にあわせて政府側も柔軟・迅速に対応する必要がある。

【Serendコメント】大企業は自社内のポリティクスなど、視線が内向きになりがち。外の動きを常に注視することがいかに大事かを改めて思い知らされる。「より迅速にクリエイティブに動いていく必要がある。」- どのような業界であってもクリエイティブに考えることが求められる時代。

1. 金融業界における銀行の役割の縮小

AIやクラウドなどのデジタルプラットフォームが重要になりつつあるなか、シャドーバンキングシステム、IT企業(アマゾンやアップルなどの大手、フィンテック・スタートアップ)らを注視する必要がある。またそれは、銀行そのものの役割が金融業界で縮小していることを意味する。

2. 新規金融サービスに沿った規制の必要性

既存銀行とフィンテック・スタートアップやノンバンクを比較した場合、明らかに既存銀行に対する規制が後者と比べて厳しいのが現状である。
同時に、これまで既存銀行が提供していたサービス(ペイメント、融資など)が新規参入組に流れつつある。ここで注意しなければならないのは、これまで想像しなかったリスクが規制の緩い新規参入組において起こり得る、ということである。ノンバンクやシャドーバンクの台頭が構造的リスクを引き起こすまでに至っているかどうかはまだ定かではないが、この流れを注意深くモニターする必要がある。
もう一つの重要なトレンドは、米国における多くの上場企業がプライベート企業に鞍替えしていることだ。様々な要因が考えられるが、いずれにしても透明性の高い上場企業から非公開企業への移行が増えているのは、あらゆる業界において事業の健全性を損なうことにつながるだろう。

3. ビジネスのあり方を変革するAIやクラウドなどのIT技術

現代において新しい技術が重要であることは言うまでもない。特に重要なのは、より迅速なデータアクセスと、より強力な計算能力によって可能になったマシーンラーニングの分野である。そういったITシステムを構築するのは時間とコストがかかるが、現代ビジネスにおいて必須の要素であることは間違いない。

【Serendコメント】IT技術を迅速に社内に取り入れることの重要性について、強調しすぎることはない。ここで注意しなければならないのは、一度導入したら終わりということではなく、常に最新のテクノロジーの恩恵を享受できるよう、なるべくシステムのカスタマイズは避け、常時アップデートを心がけるようにするべき。

4. フィンテック・スタートアップと大手IT企業群

フィンテック・スタートアップはその革新性とITプラットフォームとの親和性で多くのアドバンテージがある。
大手IT企業の競争力も見逃せない。アマゾン、アップル、フェースブック、グーグル、これらのほとんどが独自のエコシステム内で決済システムやマーケットプレースを開発、いくつかは銀行との協業を始めており、金融ライセンスを取得して直接金融業に参入予定のところもある。ただしこれら大手IT企業もいくつかの課題に直面している。彼らに対する独禁法をはじめとした様々な規制の強化、大手IT企業間での競争の激化などである。

5. 急速に変化し続ける業界におけるJPモルガンの施策

JPモルガンでは目まぐるしく変化し続ける業界トレンドに常に目を配っており、それらに対して具体的に以下の施策を行なっている。
• これまでに巨大なデータセットを蓄え、よりよい商品を顧客に提供するためにAIやクラウドシステムを迅速に取り入れる努力をしている。
• 提供する商品は顧客にとって使い勝手のよさが重要で、そのためには複雑なUX(ユーザーエクスペリエンス)は避けるべきだ。
• 既存のマーケットを守ると同時に、新規マーケットにも果敢に参入する。新規マーケットは、最初は取るに足らない規模に見えたりするが、いざそれなりの規模になった時点で参入したのでは遅すぎる。
• 施政者が各社が提供する金融商品・サービスに対して公平に対処することを願っているが、完全に公平に扱われることを期待していない。時には現状のあり方の範囲内で、自社の戦略を柔軟に調整しながら対応していく。
• 他社(フィンテック・スタートアップなど)の買収は、JPモルガンのビジネス拡大にあたって、有効な資産活用の方法だと信じている。特に決済、資産管理、データなどの分野でそれが有効だ。

【Serendコメント】この部分だけでも大企業経営者にとって読むべき価値の高い、非常に洞察に富んだ内容と言える。ユーザー・エクスペリエンス(使い勝手)の良さは、今やB2CだけではなくB2Bであっても考慮すべきポイントであり、使う側の目線で開発されなければならない。また、新規市場参入のタイミングについて述べているが、得てして参入を決めた際には時すでに遅し、というケースがありがち。慎重に新規市場を探り、ここ!という市場がピンポイントで浮かび上がった時点で早めの参入を心がけたい。

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