SXSWによってIT業界でも一躍その名が知られ、5~6年前からは企業や人がどんどん移り住むようになって何かと話題のオースティン に7月中旬行く機会があったので、当地の最新状況や所感などを徒然なるままに。
気候
訪れたのは7月17〜19日の3日間。あいにくちょうど強烈な熱波が訪れていて、連日華氏100度(およそ摂氏40度)を越す猛暑で、シリコンバレーの温暖な気候に甘やかされた身には相当応えた。
8月3日付けのAxiosの記事によると、テキサス州はここしばらく深刻な干ばつに見舞われており、それがさらに高い気温を誘発しているというまさに悪循環。
ただし異常気象による自然災害はテキサスだけではなくここカリフォルニアでも雨がふらず乾燥した山で山火事が毎夏頻発しているし、これまで夏は比較的涼しかったオレゴン州やワシントン州でもここ数年熱波が続いている。日本もそうだと思うが、地球温暖化が生命を脅かすレベルまで既に到達した感がある。
テキサス州の歴史とアメリカ合衆国
ダウンタウンにある州議事堂(The Texas Capitol)を訪問。瀟洒な建造物の中に、所狭しと歴史を物語る写真や肖像画などが陳列している。テキサス州はメキシコから独立してテキサス共和国になり、その後紆余曲折があって米国テキサス州になった。そして元からオースティン に住んでいるTexanは、”テキサス人”であることを誇りに思っている人が多い。
シリコンバレーに住んで21年になるが、この州議事堂に来て、改めて合衆国の広大さ・文化の違いを肌で感じる。コロナ・中絶・銃をめぐる論争、リベラル派対保守派の対立など、アメリカ社会が分断されつつある、という論調が最近益々増えてきているけれど、これだけ国土が広いと、その土地ごとに気候・歴史・文化も大きく異なる。ただ日本と比べると断然国民の流動性は高く、後述するがローカル経済が賑わっているところに人が移ろい、それがアメリカ全体で見たときに国の活性力を保っていると思う。


オースティン最新状況
今回車をレンタルしなかったので、3日間オースティン市内に滞在した。一緒にランチをしたローカルの方の話では、多くのIT企業がオースティン市から北上したエリアにオフィスをどんどん構えていているとのこと(例えばRoundRockなど)。オースティン市内にももちろんIT企業やコワーキングスペースがひしめいていたが、政府機関・商業スペースも多数存在、ざっくり置き換えると、オースティン市ダウンタウンはSF SOMA・ファイナンシャルディストリクト、オースティン市から北上したエリアがシリコンバレー、に相当する感じ。
今回ダウンタウンにあるWeWork2箇所に立ち寄ったのだが(最初の立ち寄ったオフィスは1フロアTikTokが占拠。アメリカでのTikTokの勢いはすさまじい)、どちらも若めのテックワーカー・アントレプレナーでほぼスペースが埋まっており、コロナ前にサンフランシスコで目にした既視感が。

オースティン市の新規事業担当者とミーティングした要点は以下。
とにかくここ数年のローカル経済の発展は凄まじく、毎日200人弱がオースティン市に流入しているそう(カリフォルニアからの転居組が多く、今からカリフォルニアからオースティン に引っ越すと、物価も交流する人々もカリフォルニアにいた時と代わり映えしない、という恐れあり)。今回実際筆者がオースティンのダウンタウンを散策した時点では、活気に溢れていてかつこぎれいで住みやすそうだ、という印象を持った。ただ急激な経済発展の負の側面として、交通渋滞の悪化、物価の高騰、手ごろな住宅が少なくなっていることなどがあり、経済が膨張するに従って、人や企業もより郊外へ移っているそうだ。
オースティンが活況な理由の一つとして、行政・大学・民間企業が持ちつ持たれつでバランスをとりながら事業の育成に取り組んでいる点が挙げられる。SXSWの成功も、地元経済に多大な貢献をした(今は若干ピークを過ぎた感はあり)。
オースティンは現在アジアとのつながりを強化すべく、韓国、日本、シンガポールのいずれかで直行便導入を検討中とのこと。
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アメリカの国土の大きさを忘れてはいけない。そして、The United States of Americaという国の名称の通り、異なる主義主張をもった州の集合体であるのがアメリカ。
次のシリコンバレーはどこか?という話題は定期的にメディアにあがるけれど、コロナ発生以降、アメリカでは国民の大移動が発生。特にオフィス出勤の必要がなくなったテック系の人材が郊外、別の州に移り住むケースが増え、テキサス、フロリダなどに流入。流入先の場所は経済発展し新たなテックハブとして栄えるが、物価高騰・人口過密になったりの飽和点に達した時点で、また別の場所にフォーカスがあたることになるかと思う。
シリコンバレーを外から眺めてみると、やはり特異な場所であると改めて感じる。ホームレス問題や物価高騰など、社会的課題が増えているものの、人材の多様性という点で*現時点*でシリコンバレーに匹敵するところを私は知らない。ただし、コロナ後、アメリカのIT業界ではハイブリッド型の働き方が定着した。これによって、テックワーカーの住む場所・働き方もまだまだ変わり続けることは間違いなく、シリコンバレー、オースティンの状況も刻々とかわっていくのだと思う。
ところでオースティン・アジア関係強化の件。日本がそのハブとして選ばれることを切に願うし、オースティンへの直行便が開設されるのは日本にとってメリットしかないと思います。